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2021
09-24

『Pale Blue Dot』オフィシャルレビュー到着

猪又孝氏によるTAEYO『Pale Blue Dot』オフィシャルレビューが到着しました。以下に掲載いたします。

 


 

 

 2020年5月にメジャー移籍を果たしたTAEYOが、前作EP「ORANGE」から約一年を経て、TAEYO名義では初となるフルアルバム「Pale Blue Dot」を完成させた。

 

 まず本作は収録曲の多彩さが特筆すべき点だ。旧名義Taeyoung Boyの時代から、彼の音楽はカラフルでスタイリッシュだった。本作にも参加しているプロデューサー・Droittteとのコラボ名義となった2018年発表の1stアルバム「SWEAR」の時点で、ヒップホップに軸足を置きながら、エレクトロニカ、フューチャーベース、R&Bなどを表現。その後もレゲトンを採り入れたり、前作「ORANGE」ではトロピカルハウスやアコギ1本によるビートレスな楽曲にも挑戦するなど、幅広い音楽性を展開してきた。本作はそれをさらに進化発展させた内容。ドラムベース、2ステップ、NYドリル、トラップ、チルウェイヴ、ラテンポップ等々が、洗練と尖鋭が共存したサウンドプロダクションで鳴り響き、型に収まらないTAEYO像を作り上げている。

 

 自身のSNSで「だいぶ深いとこまで来た」「気付いたら1年も作ってた」と呟いていたが、TAEYOはEP発表以降、沈黙を続け、試行錯誤を繰り返し、じっくりと作品を煮詰めてきた。結果、到着したアルバムは、溜まりに溜まったものを一気に爆発させた驚きのハイクオリティ。奥行き、ヌケ感、コーラスの積みなど音響は細部まで創意工夫が凝らされ、フロウも実に多彩。内面に渦巻く不安やストレスを燃料にして自己の解放に向かうリリックの数々は、悩める人の救いにもなるような力強さを備えている。さらに楽曲が進むごとに鮮やかにサウンドスケープが変化。全体を通して一編のストーリーを紡ぐようなコンセプチュアルアート作品にもなっている。

 

 周囲の雑音をシャットダウンするかのようにノイジーなシンセ音から始まる1曲目「ATTACK! feat. Ryugo Ishida」は、グラミー賞ノミネート経験を持つstarRoがプロデュース。メタリック且つトライバルな急進的ビートの上でTAEYOは怒気を孕む声でいつになく攻撃的なラップを披露、“俺が通る道 未来/敵いない試合”と無双を宣言する。続く「LET’S GET IT!!」はレイヴ感のあるプログレッシヴハウス。1曲目を “空、揺れる機体”と歌い出し、2曲目でジェット機のように加速したかと思ったら、続く3曲目「NEW SEASON」では海にダイヴ。向井太一などを手掛けるCELSIOR COUPEのプロデュースによる2ステップ調のサウンドは、きらめく水面を滑るように泳ぐ姿を想起させるが、やがてリズムは緩やかになり、アウトロでは海中に深く深く潜っていくようなに音風景へとシーンが切り替わっていく。

 

 アルバムから先行配信された「NOBODY」は、軽快なトラップR&B。TAEYOの持ち味であるソフトでエアリーな歌声と天下一品のメロディックなフロウ、そこに切なさが乱反射するギターリフが絡む、中毒性の高い楽曲だ。

 

 中盤は、Droittteのプロデュースによる退廃的な「ANRI」からスタート。90年代後半から日本のR&Bシーンを支えてきたシンガー兼プロデューサー・JiNが手掛けた仲間ソング「HOOD」と清涼ラテンポップ「RIDE」を経て、CELSIOR COUPEによるチルい祝祭ムードが漂う「ALL FOR YOU」で、TAEYOは“水の中泳ぎ描くartに生きる俺は 愛してる君といる”と歌い、暗い水中から浮上し始める。

 

 KOHHやJP THE WAVYへの楽曲提供もあるループ職人・Pulp.Kによるトラップ調の「TOO MANY STARS feat. ShowyRENZO」で肩慣らしをしたあとは、本作で最も先鋭的なstarRO制作によるエレクトリックビーツ「KEEP IT COMING feat. Masato Hayashi」で再びアグレッシブなスイッチをON。兄弟ビートメイカーのES-PLANT & R.I.Kによるドリルビートの「CHO FIRE feat. JNKMM」で荒々しく気炎を揚げる。

 

 続く「REALIZE feat. AJAH」は、内面に向き合い気付きを得たTAEYO流のゴスペルソングと言っても過言ではないだろう。本作の紅一点、次世代女性シンガーのAJAHが歌う“登ってく太陽に最大限に近いflight”というフレーズは、TAEYOがアセンションする姿を表しているようにも思える。

 

 そして疾走感あふれるドラムンベースに仕上がったラストの「RUNNIN’」で、TAEYOは力強く地面を蹴り、駆けだしていく。“誰かでいたいならもうやめな 誰か見たいなら俺を見な”と自らに発破をかけ、過去の自分との決別を高らかに宣言。ここにあるのは、輝きを取り戻したTOP BOYとしてのTAEYOの姿だ。

 

 TAEYOは自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組「SKY FORUM」(WREP火曜21時)で、アルバム発売に向けて「去年9月頃は体調を崩したり、メンタルも不調で、音楽をやれないくらいの気持ちになっていた。そこから一年後にアルバムリリースできることをしみじみ思う」と語り、「自分の音楽が自分を助けてくれた」とコメント。「その自分の音楽は俺一人でできたものじゃない。プロデューサーはもちろん、スタッフ、マネジャー、友達…自分に関わるみんなが作ってくれた。そのことが自信になっているし、みんなで作った自分の曲に自分が励まされている」と胸の内を明かしていた。

 

 “Pale Blue Dot”は、1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー1号が、1990年に、太陽から約60億キロメートル離れた彼方から地球を撮影した写真につけられた名称だ。その写真では、ぼんやりとしたひと筋の光の中に地球が「淡く、青い、点(=Pale Blue Dot)」として写っている。広大な宇宙に浮かぶ地球。そこにTAEYOは自身の姿を重ねたのだろうか。

 

 この写真撮影を提案し、写真にタイトルをつけたボイジャー画像研究チームの一員であったカール・セーガン氏は、自著にこう記している。「はるか彼方から我々のこの小さな世界を捉えたこの写真ほど、人類のうぬぼれた愚かさを実証するものはないだろう」と。TAEYOの「Pale Blue Dot」もまた、僕らにいろいろな気付きを与えてくれる一枚だ。

 

 

TEXT/猪又 孝